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トワイライト・ファントム3 ~聖者~

ザントの過去を割と真剣に考えて、
鬼のように捏造した小説っぽい文章の3話目です。
詳しくは、「トワイライト・ファントム0」をご覧ください。

もしご興味があって時間に余裕があればどうぞ。
※挿絵追加しました

◆はじめに
・ザント一人称
・物語はミドナが幼い時代からスタート。
 ザントも若くて、いくらかまとも。
・基本ザンミド意識の展開
※オリジナルキャラが出る回ですのでご注意を※

◆三行あらすじ
ミドナを説得したけど失敗!
ザント、ミドナに禁術を教える!
ミドナ、必殺技(?)取得!

トワイライト・ファントム3
~聖者~


禁術の授業が終わり、私とミドナ様は本殿の大広間まで戻ってきた。
何とか無事、誰にも会わずに辿り着くことができた。

何しろ禁術の授業は、誰かに決して見られたり聞かれたりしてはならない禁じられた行為。
警戒を怠ってはいけない。
目立つ行動などもってのほか。
解散するまでが授業と考えるべし…。

「オマエさ、よくそんな分厚い本読めるなぁ」

弾むような足取りで前を歩くミドナ様が、私が抱えている数冊の書物を見ながら尋ねてきた。
ザントとミドナ
「この本ですか?これくらいの頁数なら大したことありませんよ。ほら」

「うわっ!何だこれ!字が小さい!字が多い!絵がない!つまんなそう!気持ち悪い!」

「読んでみたら意外と面白いと思いますよ。ミドナ様がお好きな物体変化の魔術について詳しく書いてある本です」 

「うえぇ…いいよワタシは」

「そう言わずに、どうですほら」

「うわっうわっ!やめろ!吐き気がする!」

「物体移動もお好きでしたよね?ほらほら」

「あわわ!こっちも字が多い…!やめろってば!」

「そろそろ本の一冊でも読めるようになった方がよろしいかと!ほうら」

「やめろってばあほー!!」

「ヒィ!」

しまった、慌てるミドナ様が面白くてつい調子に乗りすぎた。
ミドナ様に背中を思い切り回し蹴りされた。
思いがけない叱咤にバランスを崩し、私は情けない声を上げてそのまま前に転げてしまった。
持っていた書物もこれまた派手に撒き散らしてしまう。
ドサドサと本のぶつかる音が、広く静かな大広間に鳴り響いた。

め、目立つ!!

「おいおい…しっかりしろよぉ」

「うぅ…」

大広間には家臣達が数名おり、私とミドナ様の方を見てくすくすと笑っている。
完全に見られてしまった。

わ…私としたことが…!!
くそっ、笑うんじゃない!
と、とにかく本を集めなくては…。

屈辱感に唇を噛みながら顔を上げると、私の目の前で書物がふわふわと浮かんでいた。
あちこちに散らばったはずの本は全て集まり、きれいに積み重なった状態で浮かんでいるのだ。
物体移動の魔術だが、私はまだ使っていない。
恐らくミドナ様でもない。

誰が…?

「大丈夫ですか?」

「!」

浮かんだ本を挟んだ先に一人の女性が立っていた。
その顔には笑みを浮かべているが、嘲るようないやらしさは全く感じられず、親切心からとわかるような優しい表情だった。

「あ…ありがとうございます」

私は急いで立ち上がり、女性から本を受け取って一礼した。
散らばった本を集めてくれた、この女性は…

「!ニコルー!」

「ミドナ様!」

彼女に気づいたミドナ様はぱっと顔を輝かせ、嬉しそうに飛びついた。
二人はきゃっきゃと明るい笑顔を振りまいている。

この女性は例の、ミドナ様と一番仲の良い(と思われる)侍女で、名はニコルという。
ミドナ様はニコル殿のことを非常に信頼しているようで、二人は本当の姉妹のように親しい。

ニコル殿は人当たりのいい性格という印象はあるが、本人と話したことはあまりない。
宮殿内の男共が、ニコル殿に熱烈な恋情を抱くような話をしているのはよく聞くが…。
そんな暇があるなら私の持つ仕事を分け与えてやりたい。


ニコル殿は私に軽く会釈すると、しゃがみ込んでミドナ様と向き合った。

「ミドナ様、捜しておりました。授業はもう終わったのですか?」

「ん、ああ、終わったよ!今戻ってきたところだ。もうお腹ぺこぺこだよ!」

はにかむ姫君にニコル殿はくすりと笑い、柔らかな声で語りかけた。

「ちょうどよかった。お食事の用意ができたので捜していたのですよ」

「あは、そうだったのか」

「それに、王が呼んでおりました。『今日は親子水入らずで、食事をしないか』と」

「!!」

王からの伝言を聞いたミドナ様は大きく目を見開き、照れくさそうに目線をきょろきょろ泳がせている。
手持ち無沙汰なのか、小さな手は後ろに組んでおり、もじもじと足を交差させ、困ったような顔でようやく言葉を絞り出した。

「しょ、しょうがないなぁお父様は…仕方ないから行ってやるか!」

「はい、楽しいお食事を」

ニコル殿はにっこりと優しく微笑んだ。

…どうしたらこんな微笑み方ができるのだろうか。
慈愛と温かさに満ちあふれた笑顔。
誰よりもミドナ様を思っているからこそだろう。
ニコル殿が男共からやたらと評判なのは、こういうところなのだろうか。
私にはよくわからないが、どことなく納得がいった。 

「ありがとうなニコル!またな、ザント」

ミドナ様は私達に手を振ると、飛び跳ねるような軽い足取りで去って行った。


珍しく王と二人きりの食事。
誰がどう見てもミドナ様は嬉しそうだ。
…昨日の親子喧嘩の原因というのが、何となくわかったような気がする。


遠ざかるミドナ様を見送ると、ふとニコル殿の視線に気がついた。
ニコル殿は私を見ながら「あの」と口を開いた。

「ザント様も、お昼ですか?」

「そうですね…そう考えています」

「そうですか!あの、よ、よろしければ」

ニコル殿は手を合わせて何か言おうとしているが、どういうわけかまごついて、なかなか切り出そうとしない。

…?

「何か」

「よ、よろしければ!い、一緒に食べませんか?」

ニコル殿はそう言うと、はーっと長い息を吐き、期待と不安の混じったような瞳で私の返答を待っている。



「構いませんが」

「やったっ!…い、いえ!ありがとうございます、で、では参りましょうか」

ニコル殿と私は並んで歩き、食堂の間へ向かった。

道中、ニコル殿はずいぶんぎこちない動きをしており、やたらそわそわして一貫して落ち着きがなかった。
たまに私をちらちらと見ているが、こちらがそれに気づくとハッと目を逸らし、やたらと髪を梳いたり前髪を整えたり、時折胸を押さえて深呼吸をしたりしている。
顔はどこか赤らんでおり、ミドナ様に向けていたあの笑顔はどこへやら、硬く強張った表情をしていた。

何なんだ…?



まさか…

…まさかとは思うが…

ニコル殿は…私のことを…?




——食堂の間で私たちは向かい合って座り、雑談を交わしつつ少し遅めの昼食をとっていた。

誰かと食事をするのはいつ以来だろう。
…単に食事をするだけであれば特に問題ないのだが。

「せ、先日宮殿で行われた音楽会はとっても素晴らしかったですね!」

「そうですね、素晴らしかったです。ナハト殿は途中で眠られていましたが」

「そうだったんですか!そういえばナハト様、じっとしてるより動いてる方がいいー!っておっしゃってましたものね」

「そうですね」

「あの、ザント様は前から何列目にいらしたのですか!?」

「…いえ…そこまでは覚えておりませんが…」

「そ、そうですよね、すみません…」

「ニコル殿」

「はっ!!えっと!!何でしょう!!」

「飲み物を」

「ああっ!すみません気が利かず…!今お注ぎしますね!ザント様はお飲物では何がお好きなんですか?」

「いえ、ニコル殿の方がもうないようなので」

「あっ!本当ですね!私ったら…!つい夢中で…」

「…?」

「え、えっと、自分で注ぎますので大丈夫です…!」

いかんせん、ニコル殿の様子がおかしい。

どんな話題になろうとも、無理矢理にでも私に関する話に持っていこうとする。

私の様子を伺い、私について質問し、やたらそわそわして落ち着かない…

食堂の間に移動する時からそうだが、このニコル殿の態度について考察した結果、私はとある結論にたどり着いている。

恐らく… 

ニコル殿は私のことを…





怪しんでいる。


私とミドナ様の秘密、それは禁術を教え、教えられていること。
誰にも知られてはならない。
月に一度、日はランダム。
多くの防衛魔術を仕掛け、絶対にばれないようにしてきた。

しかし。
ニコル殿はミドナ様の侍女だ。
何か感づいたのかもしれない。
ミドナ様の様子に違和感でも感じたか。
それとも授業中、宮殿内から忽然と姿を消すことを怪しんだか…。

情報を探るため、私のことをしきりに質問するのだろう。
挙動を監視するため、私のことをじっと見つめているのだろう。
そわそわと落ち着かないのも納得がいく。

何ということだ!
あんなに気をつけていたのに、こんな一人の女性に怪しまれてしまうとは…!

いや、まだ確たる情報を掴んだわけではないはず。
警戒しなければ。
動揺などもっての他。
毅然と振る舞うのだ。
よし、しっかりやるのだぞザント…

「ザント様」

「はっ!!!!!?」

しまった。不自然な返答をしてしまった。
きゅ、急に話しかけるな…

「…ザント様って、ミドナ様と仲がよろしいですよね」



ここにきてミドナ様の話になるとは。
…ニコル殿もようやく本題に入ったということか。
出方を伺おう…。

「…仲がいい?何故?」

「ミドナ様、ザント様の授業だけはすごく熱心じゃないですか。他の授業はだいたい逃げ出されてしまいますが、影の魔術の後はいつも機嫌がいいんです」

「…」

「先ほど宮殿に戻られた時も、とても楽しそうに笑い合っておりましたので…。ミドナ様が心を開かれているのだなと、そう感じたのです」

ん…?

先ほどの視線はどこへやら、ニコル殿は少し伏し目がちで、全く目を合わせようとしてこない。

なるほどそう来たか。
彼女は私とミドナ様の関係を知りたがっているのだ。
私とミドナ様に、影の魔術以外の関係——禁術の関係——があるのではないかと。
…やはりニコル殿は危険だ。
とにかくミドナ様と何かあるような『誤解』は潰さなければ。

私は心を落ち着かせ、おもむろに口を開いた。

「仲がいいというのは、よくわかりませんね」

「えっ?で、ですが…」

「ミドナ様は元々、影の魔術にとても興味があるのです。ミドナ様が授業に熱心なのはそのためですよ。そして、本人にも資質があります。 私はただ教え、伸ばそうとしているだけのこと」

余計なことは言わず『真実』を話すだけ。
それでいい。

「そ、そうなんですか!」

「えぇ」

「特別何かあるとか、そういうわけではないんですね!」

「えぇ、全く」

念を押すようにはっきり答えた。これで十分だろう。
ニコル殿はそれを聞いて、ほっとしたような表情を浮かべた。

「そうですよね…私ったら…自分が恥ずかしいです…色々考えちゃって…」

「!色々…とは」

「え!あ、あ、いえ!違います!違いますよ!お二人が仲良しで羨ましいとか思ってないです…あ、いえ何でもないんです本当に全然そんなんじゃないんですけど、ご、ごめんなさい私何言ってるんでしょうね!」

ニコル殿は慌てふためき、一人でパニック状態に陥っている。
焦りを抑えきれないのか、手に持つゴブレットは震え、今にもひっくり返してしまいそうだ。

ううむ。
本当に、何を言っているのだ…?
彼女は少し、いやかなり、何を考えているのかわからない。

少し話を逸らそう。

「ニコル殿こそ、ミドナ様と仲がよろしいようで」

「え!」

「家臣のほとんどは、ミドナ様の悪戯に頭を悩ませています。愛想を尽かしている者もいると聞きます。ですがニコル殿といる時は、ミドナ様もとても穏やかです」

「そ、そうですかね…」

ニコル殿は頬に手をあて、少し気恥ずかしそうにしている。

「お二人は姉妹のようだと、いつも思いますよ」

とりあえず、ニコル殿の話をしよう。
これ以上私に関する話などしないように。
そう思って振った話題だったのだが。

ニコル殿はぽかんと口を開き、私のことを見ている。

この反応は一体何だ。

二度三度目を瞬くと、緊張の糸が切れたのか、ニコル殿は肩の荷が降りたように吐息を洩らした。

「…ザント様…」

「はい」

「私のこと…そんなに見ていらしたのですね…」

「え」

ニコル殿はとても落ち着いた様子でゴブレットを卓上に置き、まるで祈るかのように指を絡ませた。

何だこれは。
どういうことだ。

「昨日、ザント様がミドナ様を見つけられた時、迎えにくるよう私を呼んでくださいましたよね…」

「は、はあ、そうでしたね」

あぁ、ここに来てまた私の話か…
今度はどう軌道修正したものか…


「あの…私…すごく嬉しかったです…」

「!」


ニコル殿はふわっと微笑んだ。

先ほどミドナ様に見せたものとよく似ている。
この食事会で、初めて見せた本当の笑顔。

さすがにドキリと、何か揺さぶられるものを感じた。

眉は優しい曲線を描いている。
目尻は楽をしているように下がっており、逆に口角はこめかみに向かって上がっている。
しかし唇は力を全く感じさせないほど自然だ。
体の内側に灯がともったような、心に染み入る温かな表情。
彼女にしかできない笑顔は、とても繊細に成り立っていた。

本当に素敵な笑顔…。
あなたは何故それを、私に向けるのだろう?




「ザント様、今日はありがとうございました!あの、またご一緒させてくださいね」

「…ええ」

ニコル殿はぺこりと頭を下げると、足早にその場を離れた。

長いような短いような、奇妙な食事会はようやく幕を閉じた。

とても、無駄に、疲れた。
正直彼女との食事会はこれきりにしたい。

そもそも何だったのだろうか。
私はてっきり、疑われているとばかり思っていた。
それが何だ。
嬉しいだのありがとうだの。
最後の最後まで、ニコル殿の意図が読めなかった。


『私…すごく嬉しかったです…』


頭から、あの表情が離れない。
私にだけ向けられた微笑み。

彼女は素敵な女性だとは思う。

まともに話したのは、向き合ったのは、今日が初めてだ。
何故もっと早く、そうしなかったのだろう。

いや…今日という日を迎えなければよかった。

気づきたくなかった。

彼女は…

彼女はなんて…

 




魔力が低いのだろう。



ていうね(白目)
長いね!ザンミド描写ほとんどないね!
妙な展開だけどザントの青春を書きたいんだよ!!!(爆笑)

ザントは冷静で本心をあんまり出さず、
疑り深いけどちょっとずれてる感じです。
特に女性関係はほんとにだめそう。だってザントだぜ。
それ故か、えっとなってしまいそうな、
どうにも残念な感想がオチになりましたが、これについては
また別の回で詳しく話をすることになるかと思います。

◆ちょっとした解説
・ニコル
オリジナルキャラです。申し訳ない。
ミドナと一番仲のいい侍女で、明るく優しい笑顔が素敵な女性。
多分きれいな人。
描写の中で気づいていただけていればありがたいのですが、
ザントに憧れを抱いております。
影の一族はサンプルが少なすぎて容姿の想像がしにくいと思うのですが、
ニコルはザントとミドナと影の住民を1:4:5の割合で
足して割った感じに思ってもらえればいいかと思います(余計わからん)
ニコルという名前の由来は、聖ニコラウスと呼ばれたりする
キリスト教の聖人の名前です。今回のサブタイトルに繋がってます。
何でニコルなのかは、特に深い意味はないです。
昔からニコルという名前を女性に使いたかっただけです。


・ザントイケメン説
ザントに不慣れな方は信じられないと思うのですが、
ザントにはイケメン説というものがありまして…
ザントは素顔が残念というようなことをよく言われていますが
(個人的には可愛くてしょうがないのですが)、他の影の住民を見ると、
いくらか整ってる方なのではないかという話です。
影の住民のサンプルが少なくて何とも言えないのですが。。。
このザントイケメン説をどうしても取り上げたくて、
ザントに焦がれる人もいるんじゃないかと思ったのが
ニコル登場のきっかけです。その結果こんな展開。
ザントの青春が書きたいんだよ!!!(爆笑)

・ナハト
名前だけ登場。よくわからんけど多分体育会系家臣。
ナハトはドイツ語で夜のことです。
かっこいい名前だけどモブに使ってしまった。

ザンミドを求めて読まれた方には少々退屈な回だったかもしれませんが…
次回はちゃんとザンミドですので、
みなさんもザントとかザンミドとか描きましょうね(超必死)

トワイライト・ファントム0
トワイライト・ファントム1 〜黄昏の小さな姫君〜
トワイライト・ファントム2 〜隠者の庭〜
トワイライト・ファントム3 〜聖者〜※ここです
トワイライト・ファントム4 〜潜思〜
トワイライト・ファントム5 〜黄昏の哀歌〜
トワイライト・ファントム6 〜忠誠と反故〜
トワイライト・ファントム6.5 〜後ろ影〜

トワイライト・ファントム7 〜影と静寂の中で〜
トワイライト・ファントム8 〜塔と腕輪〜
トワイライト・ファントム9 〜禁戒の呪術〜
トワイライト・ファントム10 〜光〜
トワイライト・ファントム11 〜黒の賢者〜
トワイライト・ファントム12 〜残された者たち〜
トワイライト・ファントム12.5

トワイライト・ファントム13 〜再会〜


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