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トワイライト・ファントム12 ~残された者たち~

ザントの過去を割と真剣に考えて、
鬼のように捏造した小説っぽい文章の12話目です。
詳しくは、「トワイライト・ファントム0」をご覧ください。

もしご興味があって時間に余裕があればどうぞ。

◆はじめに
・ザント一人称
・物語はミドナが幼い時代からスタート。
 ザントも若くて、いくらかまともっぽかったけど最近微妙。
・基本ザンミド意識の展開


◆ざっくりあらすじ
ザントのネジがぶっ飛んだ

トワイライト・ファントム12
~残された者たち~



「……」

天井が見える。

おかしい。

私は暗闇にいるはずなのに。
寝ても覚めても漆黒の泥の中にいるはずなのに。
天井など見えるはずないのに。 


黒の塔ではない……?


自分の身に起きている事態に頭が追いつかない。

私は辺りをゆっくり見回した。


私は天蓋付きの寝台に寝かされている。
周囲は灰色のカーテンに覆われており、その外側の様子は全くわからない。
内側にあるのは……私の左手側にある小さな棚くらいか。


清潔な香りが部屋中を満たしている。
恐らくここは病室だ。


……いや、どこだっていい。
あの塔ではないのだ。
あの塔ではないのだ……。


灰色の布、灰色の石。
黒以外の色を見るのは本当に久しぶりだ。
当たり前のように使われる、気にも留めない薄墨の色がこんなに心落ち着くものだとは。
以前なら思いもよらなかっただろう。

建物内をゆっくりと流れる魔力。
穏やかかつ厳めしい。護る力に溢れている。
この魔力は影の宮殿だ。

あぁまさか、こんな日が来るとは。
黒の塔を脱する日が。
宮殿に戻ってくる日が。
望んでいたが、感覚が麻痺していた。


あそこにいないことが、普通なのだ。


その安堵の気持ちが私に深い息をつかせた。
微かな吐息さえも、静かな部屋にはとてもよく響く。



動かし方を忘れたか、死後硬直でもしていたか。
体が石のように硬い。
ぎこちなく手足を動かし、私は何とか上半身を起こした。

見れば自分は患者のような服を着ているではないか。
やはりここは宮殿の病室で間違いない。


一体誰がここまで連れてきたのだろう。
黒の塔にいた私を。


ネイドが来たのは覚えている。
だが奴のハズがない。
天地がひっくり返ってもありえないだろう。

塔に訪れたあいつに激昂したところまでの記憶はあるが……
……その先はあまり覚えていない。


何があった?
何故私はここにいる?
誰が助けた?
一体どうやって?


疑問は尽きない。



何より……



何故、今、私は、
涙を流しているのだろう。



中指で目元をなぞると、確かに雫を掬うのだ。

肌にひやりとした軌跡を感じる。

安堵によるものではない。
どうも、目を覚ます前から流していたようだ。


何故?


瞼は微かに熱を帯びている。
暖かな何かが残っているかのような……


これは……。


妙だ。
あぁ何と言えばよいのだろう。


喜びと、何だろうか、言葉にできない、何やらどうにもできない切なさのようなもの……
二つが混ざったような、妙な感覚が心に宿っている。

火のように暖かいが、どこかさびしい……。

……


どれもこれも、いくら考えても答えが浮かばない。


悩んでも無駄だろう。
誰かに事情を聞かなくては……。

「!」

目元を拭って顔を上げた私の前を、何かが横切っていった。
視界の端から端へ、ひらひらと。
黒い蝶だ。




蝶?

何故、蝶?
この部屋に何故蝶がいる?

また疑問が1つ増えてしまった。


黒い体に黒い羽を携えた、場違いな蝶。
四枚の羽は半透明で、影の紋様がそのまま模様になっている。
紋様の柄は規則正しく整っており、非常に綺麗だ。

羽を動かす度、蝶を流れる魔力がキラキラと輝いている。


……

あ……


「待て」


魔力。
蝶を流れている魔力。

あぁ、この魔力は……!


「待て」


私の制止も虚しく蝶は自由気ままに漂い、そのまま灰色のカーテンをすり抜けていった。


あれは本物の蝶ではない。
幻影だ。

『誰か』が作った幻影だ。

誰が作ったのかは、蝶の発する魔力でわかる。


力強く、優しい魔力 ……!


この魔力は……!
あぁ……!


「行くな……っ」


私は崩れるように寝台から抜け出すと、無い力を振り絞って何とか立ち上がった。
重々しく立ちふさがる垂れ布を払いのけ、その先を飛んでいる蝶だけを一心に見つめる。


あれは、
あれは私が、
ずっと……黒の塔で求めていた……っ!


蝶は私のことなど気にも留めず、部屋の扉をもすり抜けていった。


「行くな!行かないでくれ!」


蝶に続いて部屋を出る。
長い廊下を見渡せば、右手の方向に蝶が羽ばたいていくのが見えた。

蝶はひらひらと、なおも私から遠ざかっていく。

くそ。
足が重たい。
動け。
動け。
いいから動け!

私は自らの体に鞭を打ち、夢中で後を追った。


あの蝶は光。
私がずっと望んでいた光。
闇の中にいた私を照らした光。
愛おしい光。


行かないでくれ……


行かないでくれミドナ様……


ミドナ様……!!!



蝶との距離が縮まる。

もうすぐだ……

もうすぐ追いつく……


「私の光……!」


私は蝶に手を伸ばした。


「!!!」


視界に人影が入り込む。

誰かいる。


蝶を追いかけていた私は、気づけば宮殿のバルコニーに出ていた。
宮殿の広い庭が見える。
柔らかな風に髪がそよぐ。


その人物はバルコニーから庭を見ている。
後ろ姿。
高い背丈。
黒いローブ。
重厚な冠。


あれは……



「……いかんな、年を取ると涙腺が緩んでしまって」

その人物はそう呟き、目元を軽く拭うと、おもむろに私に振り返った。

「目が覚めたようだな、ザント」

「陛下……!」


そこに居たのは、影の王。
ミドナ様の父親。
最後にお会いしたのはいつだったか。

私は軋む体を動かして、王に跪く。

こんなことをするのは久しぶりだが、家臣としての礼儀はまだ身に染み着いていたようで、反射的に体が動いた。

私にまだ人間性が残っている証拠だと安心しつつも、目前の人物の手前、緊張感に自然と顔が強張る。


影の王……


蝶の魔力の持ち主では、ない。
ある種の期待と異なる展開に胸がざわついた。


「顔を上げてくれザント。余は今、娘を見送ったただの父親なのだ。もう少し、父親でいさせてもらえないか」

王は寂しそうに微笑んだ。
私は「は」と返事をし、ゆっくりと立ち上がる。

……

私はふと疑問に浮かんだことを尋ねた。

「娘を見送られた、と申しますのは」

「あぁ……『影送りの日』だったのだ」

「!!!!!」

王はふぅ、とため息をついた。

「ついさっき、ミドナは行ってしまったよ。本来見送りは禁止なのだが……バルコニーで休んでいたら『偶然』目に入ったもので、な。
いやはや娘が出て行くというのは何とも寂しいものだな」

「……そうでございました……か」


ついさっき。
あぁ、何ということ。
影送りの日……
今日だった、とは。


影送りは、王家の古い習わしだ。
ある年齢を迎えた王家の子は、遙か東の神殿へ赴き洗礼を受ける。
そしてそのまま神殿に留まり勉学に励むのだ。

次に帰るのは6年後。
その間、宮殿に戻ることは決してなく、こちらが神殿に訪れることも禁じられる。


要するに、ミドナ様に会えるのは、
6年後……


何ということ……。


何故今日なのだ……


声が出ない。
悔しい……
悔やんでも悔やみきれない。
ミドナ様に会いたかった。
私はどういうわけか黒の塔から脱出している。
それならば、ミドナ様に会えたはずなのに。

ほんの少し……
ほんの少しだけ早く目を覚ませば……

会えたかも……しれないのに……

何故私は……

ミドナ様……
私の光……


落胆する私を見て、王はこほんと咳払いをした。

「さて、お前とは色々と話をしなければならぬなザント。
目覚めたばかりのところ悪いが、少し長くなるぞ。良いかね」

穏やかな口調……しかし王の瞳はどこまでも真剣で力強い。
否が応にも、体に緊張感が走る。

「……は」

私がそう返事をすると、王は目を閉じた。

「……いや、まずは君に謝るべきだな。
ザント、君はあの黒の塔に実に3年間、囚われていた。
つい先日、崩れた塔から発見され影の宮殿まで救助されたのだ。
信じてもらえぬかもしれんが、それまで私は君が塔に居たという事実を知らなかった」

「……」

「3年前、君は北の果ての神殿に出向いたまま帰ってくることはなかった。
捜索隊も結成されたが見つけることができず……
最終的に君は行方不明、生死不明と判断され捜索は打ち切られたのだ。
余はそれ以上の追求を怠った。故に、君の身に起きていた真実に気づくことができなかった……」

「……」

「すまぬザント。許してほしい」

「!おやめください陛下」

王が深く頭を下げようとしたので、私はそれを制止した。

塔にいた頃は、私をこんな目に合わせた全てを許すまいと、王すら例外ではないと、そう思っていた。
しかし事実を真摯に受け止め謝罪する王の前では、流石にそのような気持ちは萎縮してしまった。

そもそも王は、この言葉にしようのない混沌の感情をぶつける相手ではない。
この感情をどう処理するかは……もう少し冷静に考えるべきだろう。



顔を上げた王は、それでもすまなそうな憂いの表情を浮かべていた。


「……黒の塔の使用を、今の政治は決して認めておらぬ。
ある者達が無断で君を捕らえ、無断で黒の塔に閉じこめていたのだ。そしてそれを隠し続けていた。
その者達は特定できている。尋問の末、全てを認めた。
しかしその者たちは、君には捕らえるに値する罪状もあると言っていたのだ」

王はすっと息を吸い上げた。

「君がミドナに禁術を教えた、と」

「……」

そうだ……私はこの秘密を握られてしまったのだ。
ミドナ様に禁じられた魔術を教えたという、私の行い。
この秘密を理由に取り押さえられ、名ばかりの尋問を受け、気づけば黒の塔にいた……。

自分では『罪』とは思っていない。
ただ、ばれないように隠し続けていたのは事実。


何も言うことができないまま、私は顔を上げた。
しかし私を見つめる王の表情に、失望や怒りの色は見えなかった。


「だが……当のミドナはそのような事実はないと言っていた」

「!」

「確かに君に禁術のことを聞いたことはあるが、それを教えてもらったことはないと。
ミドナの言うことが正しければ、要するに君は……無実の罪で3年間囚われていたということになるな」

「……」

ミドナ様……


「……さて。ここまでが『世間的な真相』だ。
ザントよ……ここからは内々の話になるぞ」

王の瞳がギラリと輝いたように見えた。

「ミドナは余にだけ、真実を話してくれた。
何が真で何が偽りか。全ての真相を話してくれた」

「!」

「ミドナはほとほと手を焼く子ではあったが……嘘をついたことは一度もなかった。
だがそうしてでも、あの子は君の立場を守ろうとしたのだな」


ミドナ様……

ミドナ様が嘘を……

私の為に?


「君のしたことは正しいことではない。だが我が娘の気持ちを踏みにじるわけにもいかぬ。
ザントよ。ミドナに免じ、このことは一切不問とする。今後この件について君を咎めることはない、追求もせぬ」

王は全てのやっかいごとを祓うかのように言い放った。


「よくぞ生きて帰ってきてくれた、ザント」

「!……」


その言葉に私は、どういうわけかひどく心を打たれた。

……あの絶望の淵に居た私が、黒に汚れた私が、再び『普通の世界』に戻ることを許されたかのような……。


私は唇を噛み、こみ上げる何かを必死に抑えた。

王……

私が言葉を発する前に、王は口を開いた。


「……しかしだ。君のためにミドナは罪深い嘘をついた」

「!」

「それに対する君の『誠意』を聞かせてもらいたい」

王の表情は先ほどとは一変し、厳格な『父親』のそれとなっていた。
口調こそ冷静だが、逃がさないと言わんばかりの強い眼差しで、私に答えを求めている……


……ミドナ様の罪。
私の為に犯した罪。
事実をねじ曲げた……大きな罪だ。
大元の原因は私にある。


王が私に求めているのは、
『王への誠意』。
ひいては『父親への誠意』。


……何を言うかは決まっていた。


「……私はミドナ様の『偽り』を守り抜きます。これを『真実』にする為なら何でもいたしましょう」


そう言うと同時に、私の口の中から銀色に輝く光がこぼれ落ちた。

宙にふわふわと浮かぶそれは、私の発言が具現化されたもの。
言霊だ。


銀の言霊は、王の手元に速やかに移動した。

私は続ける。


「また……私はミドナ様に禁術はもちろんの事……魔術を教えることは二度といたしません」


先ほどと同じように言霊が現れ、王の手に渡った。


「そして……」


……


もう一つ。
私が言うべき『誠意』はもう一つある。

愛娘に禁術を教え、嘘をつかせた男に父親が求める誠意。


言うべきことは分かっている。



『ミドナ様に近づかない』

だ。


……分かってはいるが、これだけは、言いたくなかった。

声が出ない。
声が出せない。

次の発言が銀の言霊になるのが怖かった。


私が求める光を、
自ら手放さなければならないなど。


「……そして?」

「!!」


あぁ。

王は要求している。

語気に強みも荒さもないが、圧力めいたものを感じる。

私に求める『誠意』は、王の中ですでに決まっているのだ。
それと差異があれば、何を言っても認められることはないだろう。

この場に感情はない。
恩情も哀れみも、そんなものは存在しない。

逃れることはできない。
観念するしかないだろう。
私は言わなければならない。

命令された方がどんなに楽だろうか。
これを自分の口から宣言しなければならないなど……。


「そ……そして……」


唾を飲み込みやっとの思いでひねり出した私の声は、線のようにか細かった。


「……そして……私がミドナ様の家臣である限り、その立場を逸することはいたしません。私から進んで接触するようなことは決してありません」


どんなに声を絞っても、こぼれ落ちた銀の光はただただ美しく輝いている。
私はそれを恨めしそうに見つめることしかできなかった。


「うむ、わかった」

王はゆっくり頷くと、3つの言霊を1つの結晶に変化させ、空中に押し出した。

「ッ!」

結晶は吸い込まれるように私の額まで移動し、そのまま埋もれていった。


「ザント、これは誓約の魔術だ。君は君が宣言した3つの誓約を守り続けなければならない。もし破るようなことがあれば、この魔術が君に制裁を与えるだろう。それは余が近くにいようがいまいが関係なく実行される。くれぐれも忘れぬよう心したまえ」

「……」

言われずともわかっている。

誓約の魔術……。
非常に高度な魔術、いや呪術だ。
使える者はそういない。

そしてさすがと言うべきか、王の呪術は非常に強力だった。
額が熱い。
誓約を破れば、ただでは済まないだろう。


「……ザントよ」

掲げた腕を後ろに組み私を見据えると、王はまた『王』の表情に戻った。

「若い君の3年間を奪ってしまったこの事態を、余はとても心苦しく思っている」

「……」

「取り戻せるものではない。時を戻す神でもおらぬ限りな。しかしこの3年間は『次の何か』のきっかけになるかもしれない」


「?……次の何か、とは」


「余は君に、我が側近として働いてもらおうと思っている」

!!!!

「!!私が、王の?」

王はこくりと頷いた。

「さよう。あぁ、同情しているわけではないぞ。優秀な君を近くに置きたいとは前々から思っていたのだ」


何故か王は面白そうにそう言った。
その表情はどこかミドナ様に似ている。


影の宮殿。
幼い頃からの私の住まい。
そして仕事場。

3年も留守にしていた私に、居場所はないだろう。
以前の仕事ができるとも思えない。

王はそれを世話してくれるということだろうか。


……側近か。

……


「……陛下の命であれば、喜んでお受けいたします」

「そうか、そうかそうか、いい返事が聞けてよかったよ」

王はくつくつと笑った。

「まぁ元より拒否権はなかったがな。余の中ではすでに決定事項。断りでもしようものなら一発お見舞いしていたかもしれぬな」

……あの娘にしてこの親ありと言ったところだろうか。


びゅうと吹いた風が、王と私の間に吹き抜けた。
王の黒いローブがはたはたとたなびき、その影を揺らしている。


「……ザントよ」

王は黄昏の黒雲が流れるだだ広い空を見上げた。

「『統べる者』というのは……皆にとって精神的支柱となる存在でなければならぬ」

「……?」

「強い力を持つ者は、それに見合う強い責任を持たなければならぬのだ。
力を正しく使える者が『長』となるに相応しい」

「長……」

王は私の方へゆっくりと歩み寄り、そして、とても小さな声で独り言のように呟いた。

「……力を正しく使えるようになりたまえ。余はそれに期待する」

「!」

王は確かにそう言った。



「長く話して悪かったな。もう少し休むといい。だが次に目覚めれば、当分は忙しいぞザント。それが一通り済んだ時、君を側近の従者として正式に任命する。よいな。」


私の肩を叩くと、王はバルコニーから立ち去った。


「統べる者……」


一人残された私は誰に言うでもなく呟いた。


統べる者。
すなわち、王。


影の王は血筋で決まるものではない。
強い魔力を持つ王族から、そうなるべき者が選ばれ、次の王となる。

……


『優れた君を近くに置きたいとは前々から思っていたのだ』

『力を正しく使えるようになりたまえ。余はそれに期待する』


側近……
統べる者……

ふむ……
なるほど……。


あぁ、
敬愛なる、陛下。




それで私を言いくるめられるとでも思ったのか。



あちこちに散らばった点が、一つの線で結ばれた。
理解した。

私が黒の塔に投げ込まれた原因は、この宮殿、いや影の世界の仕組みにあったのだと。



何故私は塔に囚われ、魔力を奪われなければならないのか

あの牢獄でそれを考えない日はなかった。


私を無法に捕らえた犯人が誰なのかは知らないが、ネイドに言わせればそいつは私をひどく妬ましく思っていたらしい。

上へ行きたいという激しい出世欲……
その欲望を押さえきれなかったそいつは、ミドナ様の教育係である私を引きずり落とそうと暗躍していた。
そしてどこかで、私とミドナ様の秘密を握ったのだろう。


ただ。
私を陥れるのなら、塔に入れずとも方法はいくらでもあったはず。

私としては、禁術の秘密を知られただけでも痛いのだ。
それをねたにして私を揺するなり、他の家臣たちの前で私を告発し、晒し上げにするなりした方が手っ取り早いというのに。


そうしなかったのは、恐らく……
王が私を擁護することをわかっていたのだ。


私を告発したところで、それは奴らの望む最良の結果ではないのだろう。
陥れるのではなく、私という存在を抹消する必要があったのだ。
私さえいなければ何があろうと昇進の道に横入りされる心配もない、といったところか。


だから私を黒の塔へ秘密裏に投獄した……。
私の事が気に喰わない、一部の大臣どもの手を借りて。



王が私を擁護しようものなら、何があろうと私は『是』となる。
更に、事が発覚した上で、私がミドナ様に禁術を教えていた真の理由が皆に伝われば、もしかすると理解者も複数現れるかもしれない。

その時『非』となるのは、黒の塔という卑劣な手段で私を陥れた、そいつだ。


だから隠し続けたのだろう……


そいつが誰なのかは知らない。
今どうなったのかはわからない。
私はそいつを決して許しはしないし、同じ苦しみを味合わせてやりたい程の憎しみを抱いている。


だがそいつの行動を、私は根から否定できなかった。


己の欲望を叶えるには、そいつは最早、そうするしかなかったのだろう。


そうせざるを得なかったのは、この宮殿に根付く『欲』を圧する仕組みだ。
皆何かの欲望を持っている、
しかしそれを表に出し他者を出し抜こうとすれば糾弾される。


ミドナ様の名聞を考慮したとはいえ、禁術を教えたという行い自体はあまりにもあっさり許された。
ミドナ様が禁術を知ることを大して問題と感じていないようにも取れる。

欲に溺れ私を出し抜いた行為と、掟を破り禁術を教えた行為では、前者の方が王にとって『非』なのだ。


押さえきれない欲望に従い行動した者を、結果として『非』とする政治。

それが今の影の世界。

統べる者が選んだこの世界の形。



競うことを、争うことを止め、全員が横並びでなあなあの仲良しこよしを演じ、それをまとめ上げ統治しようとしているのだ。

さしずめ一族の内乱を、二度と起こさないようにするためだろうが……


愚か!!


感情や欲望を出せば衝突が起こるのは当たり前だ。

だがそれの何が悪い?

隠し続けることが正しいといえるか?
衝突をしてでも勝ち抜いた者が『是』なのではないか?
優れた者こそが欲望を叶える権利を持つのではないか?


自分が抱く欲望、他人への嫉妬……
それを覆い隠し見て見ぬふりをし、上辺を取り繕い、問題を起こさないよう恐る恐る生きるなど


なんと腑抜けた、情けない姿……!


優れた一族として生を受けた誇りは?
尊い魔力を行使しようという意欲は?

今の一族には皆無!

魔力を減らしているのが何よりの証拠!


私もそうだった。
自分の持つ欲望に気づかぬふりをしていた。
ただ自分の役割を全うするだけ、それを喜びとしていた。

だがそれは違う!

私は黒の塔で気づいたのだ。
自分が真に何を欲しているのかを。

そしてそれを欲することが、生きる為に必要なのだということを!


ああ、ああ、思い出した。
黒の塔でネイドと話した後、激昂した私は持っている欲望をさらけ出したのだ。

それは強い魔力を呼び覚まし、痺れるような快感をもたらした。

これこそが、優れた力を持つ故に許された、影の一族のあるべき姿……!



『力を正しく使えるようになりたまえ。余はそれに期待する』



期待されている……

ならば応えるのが家臣の勤めであろう。



なってやろうではないか。
次の統べる者、影の王に。



その暁には、こんな愚かな道を選んだ王家を淘汰してやる……!

私はもう騙されない……

欲望を駆逐した世界が平和などとのたまう王家こそが、私を黒の塔へぶち込んだ張本人なのだ!


腐った王家め……!
愚かな王家め……!


力を持ちながら日の当たらぬ影の地に追いやられた哀れな一族がこれ以上、我々祖先と同じ道を歩まぬように……!
滅びの道を進まぬように……!


優れた者に正当な地を!
優れた者だけが正当に得る権利を!
魔力を減らすばかりの愚かな弱者は切り捨ててしまえ!

それこそが一族繁栄の道!


私の真に求めるものはそこにある!


それを手にするためなら、どんなことでもしてやる……!

目指してやろう、誰よりも高みを!
誰よりも頂上を!
全てを統べる者となろう!
全てを手に入れる王となろう!

私ならできる、いや、私にしかできない!

王のみが継承される古の魔力を携え、
私が、この世界を変えてやる!!



あぁ……っ


あぁ、きっと……


私の治める影の世界には、真の平和が訪れるだろう。

一族は衰退の運命を逃れるのだ。

私の力が一族を救う。

優れた者は光を得るのだ。
光を得た一族は活気に溢れ、繁栄する。

皆が私に心酔するだろう。

これまでの誰よりも優れた長だと。
誰よりも一族を考えている長だと。


偉大なる影の王、ザント。


皆が私をそう呼ぶ。



それが私の望む影の世界の姿。



そして


王となった私の隣には



ーー


『偉いな、ザント』


ーー



ミドナ様がいる……。



ミドナ様は、私の方を見て、微笑んでいる。

私の名を呼んで、目を細くする。



あなたが私を導いてくれる……

私の光……

あなたは特別ーー。





私は王となろう。
あなたの隣に相応しくなろう。


何があろうと。


私にはその力がある。

力が全てを可能にする……。

次に一族を統べるのはこの私。

それが私の求める全てを叶える、唯一の方法。




私は隠し持っていた幻影の蝶を見つめる。
蝶は次第に霞んでいき、私の手のひらの中でかき消えた。


……
 



「幻では終わらせない……」




もっと力をつけなければ。




体が熱い。
かつてないほど。




ていうね(白目)

ミドナじゃなくてミドナの親父さんですみません。
ラストのザントの語りがよくわからなかったらとりあえず、
『私が次の王になったるわってザントが思った展開』
と解釈してもらえればだいたい合ってるので大丈夫です。


とりあえずこれで中編はお終いです。
この中編パートで書きたかったのは、
ザントのネジがぶっ飛んだり、一族を腑抜けと感じたり、
王家に不信感を抱く過程、ミドナや魔力への執着だったのですが、
あまりにも重くて完全なるキャパオーバーを実感しました。ボリューミー。
でもなんとか終わってよかったです。クオリティはともかく。

次の後編ではようやくザントとミドナのやり取りをたっぷり書ける予定なので、
ザンミドがお目当てだった方は次回以降見られると思います。

カツカツな話が続きましたが、ここまで読んでくださった方がいましたら、本当にありがとうございました。


後編の前に、もう1話挟みます。


◆勝手に出した用語や設定の解説
・影の王
現役王様。ミドナのお父さん。
ちょいちょい出てきてはいましたが、ベラベラ喋るのは初めてですね。
ハイラル王みたいなどっしり構えたザッツ王様というよりは、
ちょい細長くてザッツ魔術師という感じ。
というか容姿に関してはトワプリ公式マンガに出てきたのでアレで大丈夫です。
力を正しく使い、正しい道を示し、それを信じて進むことができる
肝の座った立派な王様です。
ミドナにはなかなか手を焼いている様子ですが、
一人娘のことをとてもとても大事に思っています。


便宜上『イヴニ』という名前をつけてますが、
出さなくとも話進みそうなので今後も王か陛下かお父様で呼ばれると思います。
イブニング。


・影送りの日
王家に続く古い習わし。
ある年齢に達した王家の子を長い一人旅に出すというもの。
一度旅立ったら、6年経つまで帰ってこれません。
行先は神殿、洗礼を受けた後そのまま留まり色々勉強します。
要するに留学です。

『影送り』という言葉は実際のところ、
自分の影をじっと見つめた後空を見上げると、
その影の残像が見えるというものです。
要するに全然関係ありません。響きが好きなのです><


・誓約の魔術
誓約を述べさせ厳しく守らせるという呪術の一種です。
宣言した誓約を破ると、自動的にキッツイ制裁が下されます。
負荷を与えるという特徴から分類としては呪術にあたりますが、
危害を加える為の魔術ではないので禁術扱いされておらず、
合法的に使用可能です。
ただ非常に高度な魔術なので使える人はそういないみたいです。


そういないみたいなのでみなさんザンミド書いてくださいほんとにお願いいたします(誓約)


トワイライト・ファントム0

トワイライト・ファントム1 〜黄昏の小さな姫君〜
トワイライト・ファントム2 〜隠者の庭〜
トワイライト・ファントム3 〜聖者〜
トワイライト・ファントム4 〜潜思〜
トワイライト・ファントム5 〜黄昏の哀歌〜
トワイライト・ファントム6 〜忠誠と反故〜
トワイライト・ファントム6.5 〜後ろ影〜

トワイライト・ファントム7 〜影と静寂の中で〜
トワイライト・ファントム8 〜塔と腕輪〜
トワイライト・ファントム9 〜禁戒の呪術〜
トワイライト・ファントム10 〜光〜
トワイライト・ファントム11 〜黒の賢者〜
トワイライト・ファントム12 〜残された者たち〜※ここです
トワイライト・ファントム12.5 〜蝶むすび〜
トワイライト・ファントム13


◆タグ一覧
/トワイライト・ファントム

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1 Comment

無題

ああ…ザントさんがこの時から王としての自覚が芽生え始めたんですね…。そろそろクネクネザント様とか出てくるんですかね‼‼(奮)
…すいません。ハイラルオールスターズ買ってザントでプレイして興奮してしまい…
とにかく、後半も楽しみにしてますね‼
可愛いよ、ザントさん可愛い!!!!!
Re:無題
  • おゆ
  • (2016/04/16 22:37)
ザントさん可愛い!!
ザントがいつ頃から野心を燃やしているのか非常に悩んだのですが、
ずっと昔からよりは、ある時途中からという考えに落ち着きました。
ザントが一人称してる物語なんで、本来のぶっ飛んだり回ったりはしゃいでる描写が難しくて悔しいところ。。。><

ハイラルオールスターズ楽しんでますか?
とっても面白いのでガンガンやってください!!
ザント見放題ザンミド見放題の神ゲーです()

ありがとうございます、頑張ります〜!

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